ポルタは、新宮町で本年度から開始された不登校・ひきこもり支援事業の、相談や家族の会の運営について業務委託を受け、新宮町民に向けた月5回のカウンセリングと月1回の家族の会を実施しています。事業の一環として、本年度は2回の講演会が企画され、第1回目はポルタ代表理事の稲田が「不登校・ひきこもりの理解と関わり方」というテーマでお話をさせていただきました。
第2回目の講演会として、7月26日に「あおぞら訪問クリニック」院長の黒田葉平先生の講演会が開催され参加しましたので、その概要と感想を書かせていただきます。テーマは『「不登校・ひきこもり」と「発達の特性」』です。黒田先生のお話を伺うのは2回目ですが、不登校やひきこもりがどうして起こるのか、また、そこにどう対応するのかについて、いつも大変わかりやすい言葉でお話しいただき、参加された他の方々も目から鱗の講演内容だったと思います。
黒田先生の講演では、不登校やひきこもりの状態の例えとしてヤドカリが毎回登場します。不登校やひきこもりの人々が、「自分を守るための最後の手段」として自室や家にこもることを、ヤドカリが自分を守るために殻の中に閉じこもることにたとえておられます。ヤドカリが殻にこもっている時は、外から刺激を与えても決して出てくることはありません。そっとしておけば、自分から動き出しますが、そこでまた何か刺激すると、またサッと殻に戻ってしまいます。また、大前提として、ヤドカリが生きていくために餌や水や住処などの環境が整えられていることが必要で、その上で、静かに見守れば、のびのびと動き出すのです。さらに、ヤドカリは育ってくると殻をより大きなものと交換します。この殻の交換こそ、新しい世界への旅立ちだと言えます。ヤドカリのお話から不登校やひきこもりをどう理解し、どう対応するかということがよく見えてきます。
黒田先生は、不登校やひきこもりの人々が殻にこもるのは、『「本人の気質・性格・特性」と環境のミスマッチ』によると言われます。ミスマッチがあるからには、それを調整することが必要になります。不登校・ひきこもりの人々は、「集団から孤立しやすい」特性を持つので、「本人に合う環境」を探したり、作ることが必要です。まず、本人の特性(得意なこと、苦手なこと、うまくいかない時の行動や感情など)をしっかりと把握することが大事であるということ、本人の特性を理解した上で、環境と本人へのアプローチを行なって、「何かしらの調整」をすることが必要であることが話されました。
黒田先生は、「何かしらの調整」をしていく上でのキーワードとして、「こころのモード」(「つながれるモード」と「つながりにくいモード)」、「ネガティブ・ケイパビリティ」を挙げられました。「つながれるモード」は、「ふつう」の対応で、安心してコミュニケーションができる状態と考えて対応できます。「つながりにくいモード」は、「みんな敵」、「どうせダメ」、「疑心暗鬼」など自分も他人も信じられないモードで、「とても傷つきやすい」状態です。「相手に余裕がない」ので「こちらにも余裕がなくなり」ます。この場合、コミュニケーションが難しくなるので、「ぐいぐいいかず、シンプルな言葉やわかりやすい行動」で対応するのがよく、「見守りましょう」ということになります。ここで、「見守る」ということの本当の意味が問題になります。ここは、私たちも常々強調させていただいているところです。黒田先生は、「見守る」ということは「何もしない、見て見ぬふり」ではなく、「適切に関わり続けること」だと話されました。迷った時は、「自分を責めたい気持ちはわかったけれど、私はそうは思わないな」とか、「教えてくれてありがとう。また話してくれたら私は嬉しいな」といった、「アイメッセージ」で返すのが無難という、具体的なアイディアもいただきました。また、このモードの時は、親や支援者も「焦ってなんとかしたくなる気持ち」や「相手を変えたくなる気持ち」が出やすく、それに耐えてつながり続けることが「ネガティブ・ケイパビリティ」であるということです。
「ネガティブ・ケイパビリティ」とは、「どうにも答えの出ない事態に耐える能力」、「結論を急がない・焦って何かをしたくなる気持ちを手放す」ことと説明されました。「わかろうとしながら、いきなり問題を突きつけず、適切に関わり続ける」、もっと端的に言えば「なんとかなるさ」と思いながら関わる、ということです。こころの問題は複雑ですぐに解決できることが少なく、無力感や焦りを生じやすいので、「ネガティブ・ケイパビリティ」を持つことが重要になります。ただ、保護者や支援者には余裕が必要なので、これを持つことは簡単ではないが、子どもを信じる、仲間を作って疑問を分かち合い、見通しを持つ、プラス面に注目するなどによって、安全な環境を整え、殻から出てくるのを待つのがよい、とされました。
今回の講演をお聞きして、最も印象に残ったことは、言葉としての表現は様々あれど、不登校やひきこもりの支援の基本原則はやはり「見守り」であるという共通認識を改めて確認できたことです。家族が「見守り」をできるようになるためには、家族がお家の中で、支援者として関われるようになることが求められ、一緒に不安の沼に沈んで行かないように、「なんとかなる」という感覚を共有しなければなりません。そのためには、家族同士での支え合いや、親の会のようなピアな(同志的な)集まり、医師や心理臨床、教育、福祉などの専門家の連携によるサポートが重層的に行われることが、本人や家族の安心・安全な感覚(居心地のよさ)につながり、それが本人の意識や行動の自発的な変化をもたらします。また、その連携によるサポートは、早期であればあるほど良いのです。そして、家族や本人が「なんとかなる」という思いを、具体的な根拠に基づいて持つことも大切です。私たちは、家族や本人の不安をできるだけ軽くして、根拠のある見通しを持って過ごせるよう専門性を活かした支援を行ってきました。不登校やひきこもりに関わるすべての人々が、お互いを信頼し合って、「自分らしく生きる」ことができるように、これからも微力を尽くしていきたいと改めて思いました。この度は素晴らしい機会を与えていただき、黒田先生、新宮町子育て支援課の皆様、参加者の皆様に心から感謝申し上げます。