桜の季節が終わり、山々は鮮やかな新緑に色を変えました。あっという間の芽吹きですね。不登校やひきこもりも時期が来るとまさに新緑のようにガラリと姿を変えます。その変化を支えているのは土や水。でも枝の先の細胞を若葉に変えたのは、その植物の力です。不登校やひきこもりでは、土や水は家族で、芽吹いていくのは、本人となぞらえることができるでしょう。すべて自然の日々の営みと同じなのです。
今回は不登校・ひきこもりに対する「見守り」についてお話しします。日々の相談の中で「本当に見守るだけでいいの?」「一体どうしたらいいの?」という声をよく聞きます。メディアの中でも「見守り」の大切さが強調されたり、「見守る」だけではダメだ、という意見もあったりします。どうして、意見が分かれるのでしょうか。
このような疑問や意見の相違が出てくる背景には、「見守る」という行動の定義や理解がはっきりしていない、という現状があります。
不登校・ひきこもりに直面して、最初に相談に来られるのはほとんどの場合、ご家族です。思いがけず、不登校・ひきこもりが始まって、ご家族は、「自分の子育てに何か問題があったのだろうか。」「あの時の対応が間違っていたのかもしれない。」「これからこの子はどうなって行くのだろうか。」などの不安に押しつぶされそうになっています。不安が強い中では、親も子も「できていないこと」にどうしても目が向き、今の状況を否定的に捉え、なんとか今の状態を変えて元の状態に戻そうとするのですが、残念ながら多くはうまく行きません。この時、私たちはカウンセリングを通して、お子さんの「今ここ」での状態を「できていること、できること」に焦点を当てながら、ご家族と共に考えます。
お子さんの今の状況を明確にし、肯定的に捉えていく中で、ご家族は、少しずつ状況を冷静に判断できるようになります。「できること」を意識することによって、全くダメだと思っていた見え方が変わり、ご家族が状況を俯瞰できるようになります。子どもをなんとかしなければ、という必死な関わりから、適切な距離を置いた落ち着いた関わりができるようになるからです。ここで、特に大切なことは、不登校やひきこもりはご家族が解決しなければならないことではなく、お子さん自身が解決していくことであることに気づくことです。ここで初めて「見守る」という行動ができるようになります。「見守る」ためには、お子さんとの間の適切な距離と、お子さんへの信頼が必要です。必ず、芽吹きの時期が来るという確信が、親子の信頼につながります。
「見守る」という行動の本質は、「今、ここ」で「できていること、できること」は何なのか、「今は」「できないこと」は何なのか、をしっかりと「見て」判断し、「できていること、できること」を「守る(キープする)」こと、そして、その間の小さな変化の積み重ねを経て、その時々で「できること」に対するチャレンジを働きかけられるように常に「備えておく」ことです。また、本人だけではなく、家族にとっての「できることとできないこと」を知り、家族のイベントなどの自主規制をしないことも大切です。家族全員が自己理解を深め、無理せず自然体で「できることややりたいこと」に焦点を当てて取り組むことを心がけましょう